1921年創業の歴史ある商店で、医薬品、日曜雑貨から、お酒、衣料品など、幅広い品揃えで島になくてはならない存在。さらにかつて寺小屋として使用していた蔵を改装した新店舗では、神津島の歴史や風土を学んでもらうととともに、伊豆七島の魅力発信を行うために展開されています。現在は神津島産の黒曜石の展示・販売をしています。
松村商店
100年続く店の承継と新事業の立ち上げで
島に新たな価値をもたらす。
商店概要
記事のポイント!
- 島になくてはならないお店を次男にバトンタッチ
- 蔵を活用した新事業の展開で意識が変化した後継者
- インターネット時代にも魅了し続ける店舗経営を
次男を呼び寄せ歴史ある商店の承継へ
東京都の離島で神話の舞台となった神津島。2000人ほどの住民が住むこの島には数件の店舗があります。その一つが創業から100年以上の歴史がある松村商店。着物の行商をしていた初代が店を構え、2代目は酒販、3代目の松村正巳元店主は調剤薬局を取り込んだ経営を行いました。現在は医薬品や医療品、日用雑貨から、嗜好品、お菓子、手芸品、さらには中学校や高校の制服の販売も行ういわば島の「コンビニエンスストア」。正巳氏は60歳を迎えた時に、時代感覚の厳しさや自身の体力的な問題もあり、若い世代の考えで経営すべきと考え、島になくてはならないこの店を継いでもらいたいと、離れて暮らしている次男の松村慶太氏を後継者として呼び寄せました。一度離れた島に戻ることにためらいもあった慶太氏でしたが、自身に子どもが生まれたこともあり、「自分が継がなかったらどうなるのだろう」と考え、お店を継ぐことを決意しました。それから親子でお店を営んできましたが、事業承継については手探りの状態でした。そうした時に、商工会から計画的に事業承継を進めるための事業承継支援を提案され、うけることとなりました。
後継者の育成と新事業の磨き上げのために
事業承継は、承継する迄、数年の期間を要する事が多いため、事業承継計画の策定を通じて、承継迄のタイムスケジュールを明確にする事となりました。後継者も同席のもと、誰が、いつ、何を実施していくかを決める事で、具体的なアクションが明確になり、それが、承継を進める上での大きな一歩となったといいます。
承継にあたっては、「事業承継モデル創出支援事業助成金」を活用。この制度は認定された事業承継計画に基づいて、4年間のうちに2回の助成金申請が可能となっていたので、1回目は後継者の育成と事業の磨き上げの経費として活かすことに。
後継者育成のための研修や専門家のアドバイスのもと、事業を進めるうえでの計画の立て方やPDCAサイクル、さらに松村商店の強みや弱みを洗い出し経営者として必要な知識やノウハウを学びました。同時に新事業の立ち上げとして倉庫となっていた蔵を活用した魅力的な店舗づくりを慶太氏が中心となって進めることになりました。
実は昔、寺子屋として使われたという由緒ある蔵。慶太氏と専門家・商工会の経営指導員の間で販売する商品について話し合いを重ね、神津島産の「黒曜石」にたどり着きました。その後ブランディングを行い、蔵の店舗を「石蔵」と命名し、ロゴを制作。店舗イメージを統一させるためにロゴを反映させた看板や暖簾の制作や、情報発信のためのホームページを開設しました。
2回目の助成金では、後継者の育成支援とともに、「石蔵」の魅力を高め集客力を向上するための設備費用に充てられました。たとえば、石蔵の前にあるレトロな赤いポストに着目し、スマホで撮った写真をハガキに印刷できるプリンターを購入。島内を巡ってもらい、旅先からオリジナルの写真ハガキを送るという楽しみを提供する仕組みを構築しました。そのほかにも黒曜石の陳列するガラスのショーケースや商品の案内をする印刷パネルを購入しました。
経営者としての意識が芽生えた新事業の立ち上げ
「石蔵」は2021年1月に開店。コロナ禍とあって、観光客は通常の半数だったものの、レトロモダンな店構えに惹かれて、島の人も訪れることが多いとのこと。気になる黒曜石は、色々なアイテムの中でネックレスが人気です。また、石蔵前のレトロなポストから写真ハガキを投函する仕組みは島内では初めての取り組み。神津島の観光地や施設を巡るきっかけとして期待されます。
今回の事業承継支援を受け、正巳氏は「専門家の方からの支援を受けたことで事業承継そのものが急ピッチで進みました。また的確なアドバイスをいただけて感謝しています。」と話してくださいました。
一方で慶太氏は、支援を受ける前は「お店での仕事がバイト感覚だった」と話す。しかし、「蔵の改装など、自分自身だけでは踏み込めなかった新しい取り組みを後押ししていただいたことが、とても良かったです。また研修を経たことで事業を引き継ぐ意欲が芽生えました。」とのこと。新事業である石蔵という店を自分自身が始めたことで、意識が変わり、商品の選定やお店の方向性などを奥様に相談して考えるようになった。慶太氏の奥様もSNSで積極的に情報発信をするなど、慶太氏を含めたご家族が主体的に取り組むようになりました。
他にはない価値で松村商店を進化させる
松村商店の代表は2022年1月に正巳氏から慶太氏に交代しました。現在、3児の父でもある慶太氏は奥様とともにお店を支えていかなければ、という想いでいます。
インターネットで何でも欲しいものが手に入る今、島で商品を販売することの難しさや厳しさを身に染みて感じている慶太氏。そうしたなかで石蔵というほかの店にはない価値を高めていくために、商品の選定や売り場づくり、そして継続的なSNSでの情報発信を通して、一人でも多くのお客様を作っていくことを考えています。
現在神津島は子どもの数が年々増えているとのこと。一度島を離れた人達が、島ならではの自然環境の豊かさを改めて実感し、就学前の子どもを連れて島に戻ってきているそうです。神津島は国内で2番目・東京都初の星空保護区に認定されています。居住地としても観光地としても魅力あふれる神津島で、慶太氏は「島になくてはならない店」を承継し「島にあってほしい魅力あるお店」へステップアップさせていきます。
担当コーディネーターの声
事業承継を円滑に進めるために代表自身が「気づき」を得て、第三者である商工会や専門家を支援に加えたことで、代表と後継者の想いをつないだ具体的な取り組みを事業承継計画に表すことができました。
また、後継者が主体となって新規事業を行ったことで、「事業を引継ぐ」という最も大切な意欲が如実に表れ、今後の発展がとても楽しみです。
担当コーディネーター:小山 昌宏
企業データ
会社名 | 松村商店 |
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代表者 | 松村慶太 |
所在地 | 東京都神津島村985 |
電話 | 04992-8-0055 |
業種 | 小売業 |
URL | https://kozu-stonewarehouse.com/ |